大判例

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大阪地方裁判所 昭和25年(行)1号 判決

原告 上田政男

被告 阿倍野税務署長

一、主  文

原告の請求中被告が昭和二十二年九月八日なした財産税課税価格更正の取消を求める部分はこれを却下する。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対してなした昭和二十二年九月八日付書面による通知に係る昭和二十二年度財産税課税価格更正および昭和二十四年二月二十五日付書面による通知に係る財産税課税価格更正を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告は昭和二十二年二月十五日被告に対し財産税法に基き財産を金六十六万九千五百十一円、債務額を金二十八万二千円、財産税課税価格を金三十七万七千五百十一円として申告書を提出した。これに対し被告は、原告の申告の債務金額中訴外株式会社三和銀行に対する金二十万円は保証債務であつて原告の債務額に加算すべきものでないとして、課税価格を更正し同年九月八日付書面をもつてその旨を原告に通知した。

しかし右の債務は原告が約束手形の振出人として負担する債務であつて共同振出人である訴外合資会社日東歯機製作所は振出の当初から全く支払能力がなかつたものである。よつてこれを原告の債務とすべきは当然であるから、原告はこれに対し同年十月中旬頃被告を経由して大阪財務局長に審査の請求をした。

ところが、被告は更にその後に至り原告の訴外合資会社日東歯機製作所に対する貸金六十二万八千三百八十五円五十銭の申告洩があるとしてこれを金三十六万二千八百円と評価しこの限度において課税価格を更正し、昭和二十四年二月二十五日付書面をもつてその旨を原告に通知した。

しかし、右債権は原告が右訴外会社の有限責任社員として会社の経営困難に伴い出資金の外に融通したものであるが、到底回収の見込がないので財産税法公布に際し原告は債権全部を抛棄したのである。よつて、原告はこれに対しても昭和二十四年三月十八日被告を経由して大阪財務局長に審査の請求をしたがいずれも今日に至るまで何等の決定がないので本訴に及んだ次第である。」と陳述した。(立証省略)

被告指定代理人はまず「原告の請求中昭和二十二年九月八日付書面による通知に係る更正の取消を求める部分はこれを却下する。この部分の訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、

「行政庁の違法処分の取消を求める訴は、これについて法律上審査の請求をする途の開かれているものについては、先ずこの手続を経由した後でなければ提起することができないものである。

被告は右更正の通知書を昭和二十二年九月八日普通郵便で発送したから遅くとも同月十日には原告に到達したはずである。この更正に対しては財産税法上一ケ月以内に書面をもつて審査の請求をすることができるにかかわらず原告はこの期間内に審査の請求をしなかつたものであるから、この部分に関する原告の請求は訴訟要件を欠く不適法の訴として却下さるべきものである。」と陳述し、

つぎに本案につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「原告の主張事実中原告が昭和二十二年二月十五日その主張の通りの財産税法所定の申告をしたこと、これに対し被告が二回に亘り原告主張の日にその主張の通り課税価格を更正してこれを原告に通知したことおよび原告が昭和二十四年三月十八日被告のした右更正に対し大阪財務局長に審査の請求をしたが未だそれに対する決定がなされないことはこれを認める。

しかしながら、財産税法所定の調査時期である昭和二十一年三月三日現在における原告の財産は金百三万二千三百十一円、債務額は金三万二千円、従つて課税価格は金百万三百十一円である。

原告申告の債務額金二十八万二千円のうち、訴外株式会社三和銀行に対する金二十五万円の債務(原告主張の如く金二十万円ではない。)は訴外合資会社日東歯機製作所の右訴外銀行に対する債務を原告が保証した債務であり、当時主債務者たる右訴外会社は相当の財産を保有しており右債務につき支払能力を欠くものではなかつたから、財産税法第三十五条により「その時の現況」によつて評価すると消極財産として無価値であつた。よつて被告は右金二十五万円の債務を課税価格より控除すべき債務に計上すべきものにあらずとして、この限度において先きに原告のした申告に対し課税価格の更正をしたのである。仮に、右債務が保証債務でなく原告主張のように手形の共同振出による債務であるとしてもその実質は保証債務であるから右の結論に変りはない。

そして、原告は前記調査時期に右訴外会社に対し金六十二万八千三百八十五円五十銭の債権を有していたがこれは申告もれであつた。この債権につき原告主張の債権抛棄の事実はなくもとより原告の積極財産であるから、被告は右債権を現況により時価三十六万二千八百円と評価し、この限度において先に原告のした申告に対し重ねて課税価格の更正をしたのである。

以上の通り、本件更正処分はいずれも何等違法ではないから、原告の本訴請求は失当である。」と述べた。

(立証省略)

三、理  由

原告が昭和二十二年二月十五日被告に対し財産税法に基き被告主張の申告書を提出したことは当事者間に争がなく、この申告に対し、被告が課税価格を更正し同年九月八日附書面をもつてその旨を原告に通知したこともまた当事者間に争がないところである。原告は右の更正は金二十万円に関すると主張するけれども、証人池田作衛の証言によれば、この更正は被告主張の通り金二十五万円に関してなされたものであることが認められる。よつてこの点に関する被告の本案前の抗弁について考えよう。

当時施行されていた日本国憲法の施行に伴う民事訴訟法の応急的措置に関する法律(以下民訴応急措置法と略称する)によれば、違法行政処分に対する取消の訴は処分のあつたことを知つた日から六ケ月の期間内に提起しなければならないものである。同法は、その後に施行された行政事件訴訟特例法第二条のように、訴願前置主義を規定していないから、当該行政処分に対し審査の請求の途の開かれている場合においても、別に審査請求の有無にかかわらず、行政処分に対する取消訴訟の出訴期間は進行するものと解する余地がないわけではないけれども、右民訴応急措置法によつて初めて行政処分に一般的に取消の訴を提起することが認められた当時においてこの点をしかく厳重に解することは賛成し難いのであつて、むしろこの点は最も緩やかに解すべきものであろう。従つて、行政処分に対する取消の訴は出訴期間は当該行政処分に対し審査の請求等の途の開かれていない場合と、この途の開かれているにかゝわらず、この途によらなかつた場合においては行政処分のあつたことを知つた時より進行すべきも当該行政処分に対する取消の訴は、審査の請求の有無にかかわらず処分のあつたことを知つた時から提起し得べく、審査の請求のあつた場合には、この取消訴訟の出訴期間は、この審査請求に対する決定があつたことを知つた時から進行するものと解するを相当とする。

これを本件について考えて見ると、財産税法によれば課税価格の更正に対し異議のある者はまずこれについて通知を受けた日から一ケ月以内に審査の請求をしその審査の決定に不服ある場合に初めて行政裁判所に出訴することができる旨規定されているけれども、同法は昭和二十二年三月一日前に制定された法律であるから、民訴応急措置法第八条により、財産税法における右規定は、課税価格の更正に対し審査の請求の途を開いた点のほかは右の論点に何等の関係はないのであつて、結局本件における出訴期間は、原告が前認定の課税価格の更正に対し審査の請求をしなかつたのであれば、右更正の通知のあつた時から、審査の請求をしたのであればこれに対する決定の通知のあつた時から、進行するものと解すべきものであり、また財産税法の諸規定を総合すれば右審査の請求は書面をもつてすべきものと解すべきところ証人池田作衛の証言と原告本人訊問の結果を総合すれば右更正に対しその頃所轄税務署に対し口頭で異議ある旨を述べたことはこれを認められるけれども、適式の審査の請求をしたことはこれを認めるに足る証拠がない。従つてこれに対する取消の訴は前記の理由により右更正につき原告にその通知のあつた時から六ケ月の期間内に提起することを要するものであるところ、被告が昭和二十二年九月八日通常郵便をもつて原告に右更正の通知書を発したことは弁論の全趣旨に徴し原告これを争はないものと認むべきものであるから、当時の郵便事情を考慮し同通知書は遅くとも同月十日には原告に到達したものと認むべきであるから、右更正に対する取消の訴は結局同日より六ケ月すなわち昭和二十三年三月十日までに提起することを要するわけである。然るに原告が本訴を提起したのは昭和二十五年一月六日であるから、本訴は右更正に対する限り不適法として却下する外ないわけである。

そこで進んでその余の請求の本案について判断する。

原告の訴外合資会社日本歯機製作所に対する金六十二万八千三百八十五円五十銭の債権の申告もれありとしこれを金三十六万二千八百円と評価しこの限度において課税価格を更正し昭和二十四年二月二十五日附書面をもつて原告にその旨通知したことは当事者間に争がない。

原告がもと右訴外会社に対し金六十二万八千三百八十五円五十銭の債権を有していたことは原告の認めるところであつて、原告がこれにつき債権抛棄をした旨の原告本人の供述は信用し難く、他にこれを認めるに足る証拠はなく、証人池田作衛の証言によれば、原告は右債権につきその頃右訴外会社所有の機械類を以て代物弁済を受けこれを金三十六万二千八百円と評価して、新設会社の出資に充てたことが認められるので、被告が、原告の右訴外会社に対する前記金六十二万八千三百八十五円五十銭の債権を金三十六万二千八百円と評価しこの限度において申告にかかる課税価格を更正したことには何等の違法がなく、これが取消を求める原告の請求は失当としてこれを棄却すべきものである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 浜本一夫 鈴木敏夫 麻植福雄)

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